毎日1つの新しい物語を書き続ける事とは一体どういう苦労があるのでしょうか?
ツイッターやブログなどで毎日何かを発信している人は、一般人でも少なくないと思います。
僕も記録や頭の整理のためにランニングや書籍などについて毎日SNSで発信することを心がけています。
発信する側になって気づくことは、「有益な情報発信を毎日行うことって非常に大変」ということです。
当たり前のようですが、実際に自分がやってみると改めてこのことに気付かされます。
作家さんではありますが、眉村卓さんは約5年間にわたって短い物語を毎日書き続けた人物です。
それらの短編の一部を収録した「僕と妻の1778話」では、物語のほか、新しいものを作り続ける苦悩・心境なども綴られています。
最愛の妻へ捧げる愛の詰まったSF短編集
眉村卓著「僕と妻の1778話」
こんな方におすすめ
・ツイッターやブログなどで毎日更新を目指している方
・サクッと1冊本を読みたい方
・おすすめ短編集を探している方
・SF小説が好きな方
・泣きたい方
本書について(感想)
本書の作者である眉村卓さんが悪性腫瘍により余命1年と告げられた奥様のために、
短い物語(400字の原稿用紙3枚以上、手書き)を毎日1話書くことを始めました。
これらの「妻に捧げた短編」は、1997年7月〜2002年5月の約5年間に計1778話が書かれました。
本書ではこのうちの52話が収録されています。
(本書とは別の「妻に捧げた1778話(新潮新書版)」には別の短編19話が収録されています)
すべての短編は、基本的に「笑い」を心がけて作られたそうです。
また、物語の中には、「長編バージョンも読んでみたいなあ」と思う物語もいくつもあります。
お笑い芸人のカズレーザーさんもおっしゃっていましたが、最後の一文でグッときます。
本書の最後には、眉村夫妻の長女である村上知子さんの解説があり、こちらも素敵です。
本編ではもちろん眉村卓さんからの視点で何もかもが語られているわけですが、
知子さんの解説では娘からの視点で「両親」が語られます。
そして、読了後は優しい気持ちにさせてくれます。
新しい物語を作り続けるつけるためにする事とは?
本書では、各短編の後に眉村卓さんによる短い解説や、物語についてのエッセイなども書かれています。
このエッセイも面白くて、とりわけ「ネタの見つけ方」、「物語の作り方」、「話の広げ方」など
物語の書き方については作家さんの心の内が垣間見れて「へえ〜」と思うところが多々ありました。
アイデアの生み出し方
眉村さんの場合、新しいアイデアは、完成されたものを単体で思いつくわけではないそうです。
よくアイデアが降ってきたとか聞きますが、それはかなり特別なことだと言及しています。
いくつかのアイデアの合体・合成体が新しい見方になる場合が多いとおっしゃっている点は勉強になります。
これだけの面白い世界観を持った人でもコツコツと日々の気付きや発見を集めて、それを掛け合わせることで新しいものを生み出しているわけですから、自分もそうした視点を持つことをまずは大事にしたいと思います。
誰に対して書いているか
何かを書き続けるためにもう一つ重要なポイントとしては、誰を対象に書いているかです。
マーケティングの世界では、ターゲットにする顧客のことを「ペルソナ(顧客像)」と言います。
眉村さんが書き続けた1778話の物語は、奥様という明確な読み手を意識して書かれています。
したがって、明確な読み手を設定して、その読者が好きな事、嫌いなことを想像しながら、日々の生活で常にアンテナを張っておくことが重要なんだとこの本を読んで感じました。
眉村さん自身も、これらの物語に関して奥様を笑わせるつもりで書いてきた、と言うようなことをおっしゃっています。
奥様(読者)に喜んでもらうことが、物語を作り続ける原動力になっていたのだと思います。
【ネタバレあり】オススメの物語
時計やカメラをバラバラにして増殖するミニミニロボット(5ミリくらい)の話。
ミニミニロボットにいたずらっぽさが出ていて好きです。
この物語が好きというというか、何かを創る際の苦悩が共感できます。
平時にはぱっとせず、与えられた仕事で手一杯の社員は、非常時のために存在するという話。
「関東大震災時には、実際にこうした乱世型社員がリーダーシップをとって活躍した例が複数確認された」という解説も含めて興味深いです。
ある日突然送られた新種の植動物に、世話をしなかったという理由で襲撃される話。
めちゃくちゃな設定と世界観が後に残ります。
早朝の喫茶店にたまたま来た男性が、過去から来たかもしれない別の男性に出会う話。
陰ながら町の平和を守っていたかもしれない変な人「Jさん」の話。
この「Jさん」の姿勢になんだか愛があるなぁと感じます。
深夜の喫煙室で、たぬき、キツネ、イヌ、ネコなどのお化けとタバコを吸う話。
ヘビースモーカーである作者が実際の生活で喫煙スペースが激減してきたことを背景に
好き放題に書いてみたとのことです。
その解説を読んでからもう1度この物語を読むと、
「お化け側の視点で書いたのかな?」と思って笑ってしまいます。
まとめ
◎ 新しいアイデアは突然思いついたりしないので、日々の小さな気づきや発見などを書き溜めておき、それらを掛け合わせることで新しいアイデアが生み出されやすくなります。
◎ ちなみに本書が好きな方は、世界観が似ている短編集「うれしい悲鳴をあげてくれ」(いしわたり淳治:ちくま文庫)も好きだと思います。
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