美術館ってどんな場所?「デトロイト美術館の奇跡」から学ぶ

読書レビュー

美術館ってどんな場所でしょうか?

美術館ってどこか気軽に行けないイメージがあったり、

そもそも行ったこと事がないって人もいるかもしれません。

ですが、美術館って「友達の家」と呼べるくらい気楽に行ける場所なんです。

そんなことを教えてくれるのが原田マハの「デトロイト美術館の奇跡」です。

こんな方におすすめ

・本を読んでほっこりしたい
・サクッと本を1冊読みたい
・アートに関連した小説が読みたい
・何か本を読みたいけど、何読んで良いかわからない

あらすじ

本作「デトロイト美術館の奇跡」は、実話を基にしたフィクションです。

2013年にデトロイト市が財政破綻に陥ったために、

市の管理下にあった「デトロイト美術館(DIA)」が存続の危機に直面します。

デトロイト市は、DIAがセザンヌ、ゴッホ、マティス、ルノワールなどの傑作品を所蔵しているため、

公務員の年金財源の捻出するためにこれらの売却を画策します。

当然ながら、これに反対した人々は少なくありません。

DIAのチーフ・キュレーター(学芸員)のジェフリー・マクノイドもその一人です。

ジェフリーは大学時代からセザンヌを研究してきた人物で、

同美術館に所蔵されている「マダム・セザンヌ(本の表紙の絵画)」に魅せられてDIAに就職しました。

ジェフリーにとって「マダム・セザンヌ」をはじめとするコレクションが売却されることを到底受け入れることはできませんが、

財政立て直しのために決められた市の決定には逆らえません。

この状況に待ったをかけたのが生粋のデトロイター(デトロイトで生まれ育った人)で

年金暮らしのアフリカ系男性フレッド・ウィルでした。

フレッドと彼の亡くなった奥さんはDIAのアート作品を「友達」と呼び、

同美術館を「友達の家」と形容します。

何の影響力もない一般市民のフレッドがそれまで面識のなかったジェフリーと会って、

「DIAに対する思い」を伝えます。

その時にフレッドの行ったある行動が、次第に大きなうねりとなり、DIAに”奇跡”をもたらします。

感想

巻末の鈴木京香さんとの対談によると、

登場人物は、すべて実在のモデルがいるかのようですが、

コレクターのロバート・タナヒル氏以外は架空のキャラクターです。

各人は原田マハさんがデトロイトでの取材時に実際に出会った何人もの「デトロイター」が合わさってできたキャラクターとされます。

フレッドは、実写化すると映画「最高の人生の見つけ方(バケットリスト)」に出演したカーター(モーガン・フリーマン)という感じでしょうか。

文庫本で120ページとサクッと読める分量にも関わらず、

原田マハさんの作品らしいほっこりする読了感ももちろん味わえます。

本作品をより楽しむための予備知識

デトロイト市ってどんな都市?

アメリカ北東部のミシガン州デトロイト(人口約67万人)は、

20世紀に入り大手自動車メーカー(フォード、ゼネラル・モーターズ、クライスラーなど)が同市で自動車工場を構えたことから、全米一の自動車工業都市に発展しました。

1950年頃には人口約180万人程にまで増加し、その半数近くが自動車産業に関わっていました。

しかし、1950年代~60年代には全米で公民権運動(アフリカ系アメリカ人などのマイノリティが合衆国憲法で認められた「基本的人権の保障」を訴えた運動)が激化すると、

デトロイトでも1967年7月に市内で暴動が発生しました(43人死亡、1,189人負傷)。

この暴動をきっかけに、身の危険を恐れた白人らが次々にデトロイトを脱出(あるいは郊外へ避難)などして人口流出が進みました。

また、80年代にはコスパ抜群の自動車を量産する日本の自動車メーカーが台頭したことにより、

市内の自動車関連会社が相次いで倒産しました。

その後、倒産を免れた多くの自動車関連会社がグローバル化の影響により人件費等が安いメキシコや中国などに工場を移転したことに伴い、

デトロイト市の税収はどんどん縮小していきます。

さらに、2009年にはリーマンショックの煽りを受けて、

クライスラー、ゼネラル・モーターズが経営破綻しました(その後、両社とも政府支援等を受けて再生)。

市の税収減に歯止めがかからず、

公務員や警察官の人員削減、維持費のかかる公園を閉鎖するなど

市内では公共サービスが著しく低下しました。

そうした中の2013年7月、デトロイト市が「連邦破産法9条」の適用を裁判所に申請し、

財政破綻することになるのです。

負債総額は180億ドル(1兆8,000億円)で、アメリカの自治体の破綻としては過去最大規模になります。

なお、デトロイト市は、失業率の上昇、警察官の人員削減などを背景に治安が悪化したことで、

「全米の中でも最も危険な都市」となりました。

治安は徐々に改善傾向にありますが、

FBI犯罪統計(2018年)によると、同年の殺人発生率(人口10万人当たりの発生件数)は38.9人であり、

全米平均の 5.0人を大きく上回っています(東京は0.7人)。

デトロイト美術館ってどんな美術館?

1885年に創立され、全米では2番目に古い美術館です。

ちなみに最古の美術館は1881年に創立されたオハイオ州にあるシンシナティ美術館です。

DIA所蔵のコレクション数は、6万5,000点以上と全米で6番目に多く、

それらのジャンルもアフリカ、アジア、ネイティブ・アメリカン、イスラム、古代美術など幅広くカバーされています。

本の表紙の絵画「マダム・セザンヌ」について

フランス人画家ポール・セザンヌ(1839年~1906年)によって1886年〜1887年に描かれた作品で、

「デトロイト美術館の奇跡」の肝となる絵画です。

肖像画の女性は、タイトルのままですが、セザンヌの妻オルタンスです。

ちなみに、オルタンスの肖像画は計27点も存在し、

デトロイト美術館所蔵の「マダム・セザンヌ(縦100.6cm、横81.3cm)」を含め

大小様々なサイズで描かれています。

まとめ

◎ 美術館とは、まさに「友達の家」に行く感覚で訪問できる場所です。
◎ それを教えてくれるこの物語は、1日で読み切れる短さで、読了後にはほっこりできます。
◎ 読み終わった後は是非お近くの美術館へ行ってみてください。
◎ 興味のあるアートに出会ったら、私がそうでしたが、作者や作成された時代背景などを調べてみるとアート鑑賞がより楽しくなると思います。
 

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