映画を楽しむための観方とは何か?
映画は好きなジャンルや好きな俳優さんが出演しているものを楽しんで観ればそれで良いと思います。
ただ、映画の時代背景などが頭に入っているだけで、その映画がさらに面白くなることがあります。
小説「キネマの神様」では、映画作品を深く考察することの楽しさを学べます。
映画好きの、映画好きによる、映画好きのための物語
原田マハ著「キネマの神様」
こんな方におすすめ
・面白い映画評論を探している方
・ほっこりした方
・泣きたい方(ジーンとしたい方)
・おすすめの小説を探している方
あらすじ
17年間務めた大企業を辞めたばかりであった円山歩(39歳)は、ひょんなことから
映画雑誌の老舗出版会社「映友社」にライターとして再就職します。
歩は入社してすぐ、会社ブログのリニューアル担当を任されます。
このブログを担当するチームは、
歩、同僚の新村穣(35歳)、社長兼編集長の息子・高峰興太(29歳)、
そして、歩が「映友社」に就職するきっかけを作った父の円山郷直(79歳)の計4人です。
円山郷直はただのマンションの管理人であり、ライターでもないド素人ですが、
長年にわたって数々の映画を観てきたかなりの映画好きです。
人気ブロガー「ゴウ」としてネットの世界でちょっとした有名人になります。
この人気ブログは国内にとどまらず、
英訳化によって海外でも注目を浴びるようになるのですが、
思いがけないゴウの「敵」が現れます。
その「敵」は、Rose Budと名乗るアメリカ人であり、
ゴウのブログ記事がウェブサイトにアップされる度に
それを真っ向から、そして上から目線で批判します。
しかし、「ゴウ」と「Rose Bud」の間には徐々に「戦友」として友情が芽生えます。
一連の両者のやり取りを通して、周りの人たちの人生が好転していく、そんな物語です。
主な登場人物
感想
映画を楽しむための観方とは何か?
一つは、多くの人がすでに無意識のうちにやっていることですが、登場人物に感情移入をすることです。
本作では「ゴウ」と「Rose bud」が
映画「フィールド・オブ・ドリームス」について論戦を繰り広げます(文庫本P163〜)。
ゴウはこの映画が、家族愛をテーマにした話であり、
さらには父と息子の和解の話であることを
自分の生い立ちや現在の家庭環境などに重ねて説明します。
もう一つには、作品の時代背景や舞台となっている国や地域の文化・習慣などを知っておくことです。
Rose budは、家族愛などという言葉で同作を片付けるな、とゴウの意見を制して、
作品の時代背景や主人公らの生い立ちを簡潔に説明しつつ、
主人公はアメリカ人の手が届きそうで届かない夢を実現した話なんだ、と解説します。
僕自身も「フィールド・オブ・ドリームス」についてはゴウと同じような感想でしたから、
Rose budの論評にはそういう見方もあるのかと、映画の観方を見直す良いきっかけとなりました。
特にアメリカには、開拓の歴史・精神、宗教観、人種差別問題などがあり、日本人には分かりづらい部分が多数存在しますよね。
こうした事柄を事前に学んでおくだけで、映画をさらに楽しく鑑賞できますし、
様々な映画作品の中で出てくるちょっとしたジョークがわかるようになります。
「キネマの神様」をさらに面白く読むために、観ておくべき映画2作品
本作では映画の名作が何本も出てきます。
もちろん全部観た方が良いのですが、
これだけは知っておくと、より面白く読める映画を2つ挙げます。
1つ目は、前述のアメリカ映画の名作であるフィールド・オブ・ドリームス(1989年)です。
「キネマの神様」では、「ゴウ」と「Rose bud」が評論対決をするきっかけとなった映画です。
農家の家族が、生活の糧であるトウモロコシ畑を切り開いて作った野球のスタジアムに
実在した野球選手などの幽霊が集まる物語です。
この設定はスッと受け入れられないのですが、心温まる感動作品です。
もう一つは、イタリア映画の名作であるニュー・シネマ・パラダイス(1988年)です。
「キネマの神様」の肝になる映画です。
この映画を知らなくても「キネマの神様」を十分楽しめと思いますが、鑑賞済みであれば、
はじめから最後まで、より楽しめること間違いありません。
ちなみに、この映画は年齢を超えた友情の話です。
また、主人公の少年トトの大恋愛の物語でもあります。
少年時代のトトが地元の映画館で映画を観ているその雰囲気がとっても良いです。
できれば単館の映画館で鑑賞してほしいのですが、
なかなかそうした機会はありません。
以上2つの映画をまだ観ていないという方は是非、
「キネマの神様」を読む前に、あるいは同時並行で鑑賞することをお勧めします。
「キネマの神様」に出てくる映画一覧
この物語の中では、先に挙げた2つの映画に加えて、たくさんの映画が言及されます。
会話の中でサラっと言及されるものまで結構あります。
すべてではないですが、言及された映画を挙げてみました。
どのくらい観たことがあるでしょうか?
ワーキングガール
(1998年、アメリカ)カッコーの巣の上で(1975年、アメリカ)
テルマ&ルイーズ(1991年、アメリカ)
自転車泥棒(1948年、イタリア)
或る夜の出来事(1934年、アメリカ)
カサブランカ(1942年、アメリカ)
シャイニング(1980年、アメリカ、イギリス)
ライフ・イズ・ビューティフル(1997年、イタリア)
グッドナイト&グッドラック(1997年、アメリカ)
ブロークバック・マウンテン(2005年、アメリカ)
ローマの休日(1953年、アメリカ)
花嫁のパパ(1991年、アメリカ)
アバウト・シュミット(2002年、アメリカ)
サスペリア(1977年、イタリア)
時をかける少女(1983年、日本:アニメ映画2006年)
ゴジラ(1954年、日本)
キングコング(1933年、アメリカ)
ガメラ(1965年、日本)
第三の男(1949年、イギリス・アメリカ)
ALWAYS 三丁目の夕日(2005年、日本)
父親たちの星条旗(2006年、アメリカ)
硫黄島からの手紙(2006年、アメリカ)
眺めのいい部屋(1986年、イギリス)
アメリカン・ビューティー(1999年、アメリカ)
シンドラーのリスト(1993年、アメリカ)
アイ・アム・サム(2001年、アメリカ)
ララミー牧場(1959年〜1963年に放送されたテレビ映画、アメリカ)
フォレスト・ガンプ(1994年、アメリカ)
インディ・ジョーンズ 最後の聖戦(1989年、アメリカ)
ターミナル(2004年、アメリカ)
ビッグ・フィッシュ(2003年、アメリカ)
市民ケーン(1941年、アメリカ)
シェーン(1953年、アメリカ)
荒野の七人(1960年、アメリカ)
プライベート・ライアン(1998年、アメリカ)
タイタニック(1997年、アメリカ)
アメリ(2001年、フランス)
戦場のピアニスト(2002年、フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス)
イングリッシュ・ペイシェント(1996年、アメリカ)
Shall we ダンス?(1996年、日本)
七人の侍(1954年、日本)
猿の惑星(1968年、アメリカ)
オール・アバウト・マイ・マザー(1999年、スペイン)
トーク・トゥ・ハー(2002年、スペイン)
ゴースト ニューヨークの幻(1990年、アメリカ)
天国から来たチャンピオン(1978年、アメリカ)
黄泉がえり(2003年、アメリカ)
リトル・ミス・サンシャイン(2006年、アメリカ)
アダムスファミリー(1991年、アメリカ)
殺人狂時代(1947年、アメリカ)
ロビンフッドの冒険(1938年、アメリカ)
まとめ
① 感情移入すること
② 作品の時代背景や舞台となっている国や地域の文化・習慣などを知ること
当たり前のようですが、特に②に関しては面倒くさくてやらない人がたくさんいると思います。
少しの手間で作品がさらに面白くなるなら、やらない手はありません。
また、映画評論家・雑誌等の解説を読んだり、聞いたりするのも映画に限らず作品を楽しむための手段の一つですよね。
ちなみに、キネマの神様の文庫本では片桐はいりさんがこの物語の解説を書いています。
これは、片桐さんの人間性あふれる素敵な解説で、
作品を読んだ直後のほっこりした読了感を増幅してくれます。
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