現代の家族の形とは何か?瀬尾まいこ著「そして、バトンは渡された」から学ぶ

読書レビュー

現代の家族の形とは何か?

辞書でさえも家族を「夫婦の配偶関係や血縁関係などで結ばれた集団」としているけど、

現代社会においてその定義はもう普通ではないのかもしれないです。

最近では、ルームシェアなどで共同生活を送ることも特殊なケースではなくなってきましたし。

「そして、バトンは渡された」では、ぼんやり持っている「普通の家族感」を改めて考えさせられます。

ちなみに、この物語を読み終えた時、心の底から感動して優しさと愛が溢れ出ると思います。

家族愛の固定観念をぶち壊す感動作品

瀬尾まいこ著「そして、バトンは渡された」

こんな方におすすめ

・ほっこりしたい方
・泣きたい方
・家族愛をテーマにした物語を探している方
・違った角度から物事を捉えている作品を探している方

あらすじ

主人公である優子は、物心がつく前に母親を交通事故でなくしており、

父親の水戸秀平と共に暮らしていました。

秀平(35歳)は、優子が小学2年生のときに田中梨花(27歳)と再婚します。

幼かった優子は、美人で優しい印象の梨花のことがすぐに大好きになりました。

ところが、それからの3年間で夫婦の関係が次第にギクシャクしはじめます。

秀平の長期滞在が見込まれる海外転勤が決まったことをきっかけに、

小学校高学年の優子は、父親と梨花のどちらに付いていくかという究極の選択を迫られます。

結局、優子は、今の生活を変えたくないとの理由で、日本にとどまることを決意します。

これを機に秀平と梨花が離婚し、優子は梨花と2人暮らしをすることになります。

その後、梨花は、母親として優子を育て、そのために結婚を2回しますが、

とある理由で3人目の旦那である森宮壮介と当時15歳だった優子の元から去ります。

こうして優子は、3人目の父親と2人暮らしをすることになります。

不幸な話として扱われそうなストーリーですが、幸せいっぱいの物語であり、いい意味で裏切られます。

物語の構成

この物語(全372ページ)は、2つの章に分けられています。

第1章は、全体の約3分の2を占めており、優子が高校3年生の時代を軸に話が進みつつ、

その合間に過去の出来事が部分的に回想されます。

一般的には理解しにくい優子の家庭環境ですが、どのように形成されたのかが小出しにされる過去のエピソードによって徐々にわかってきます。

第2章は、22歳になった優子が自身の結婚に向けて、それぞれの親にその報告をしにいく話です。

前章で出てくる疑問を一気に解消します。

主な登場人物

森宮優子
マイペースな性格ではあるけれど、大人びた考えを持った女の子です。

15歳から自分とは血縁関係のない父親(森宮壮介)と2人暮らしをしています。

優子には、これまでに3人の父親がおり、母親も2人います。

父親が変わる毎に名字が変わるなど、その家族構成は複雑であるため、

周りの友人や学校の先生などには”可愛そうな子”として扱われます。

しかし、それぞれの親からたくさんの愛情を注がれたこともあり、幸せな日々を送ります。

水戸秀平
優子と血の繋がった父親です。

見捨てたわけではありませんが、転勤のため優子を日本に置いてブラジルへ渡ります。

単身でブラジルへ行ってからも優子のことをずっと想ってきました。

田中梨花
優子の2人目の母親です。

バイタリティ溢れる行動派で、明るい性格の持ち主です。

優子の家族環境を激変させた張本人でもあります。

3人の男性(優子にとっては3人の父親)と結婚し、それぞれと離婚します。

結婚と離婚を繰り返した背景には、優子に対する多大な愛情があります。

泉ヶ原茂雄
優子が小学校6年生の時に2人目の父親になりました。

当時49歳で、ずいぶん前に病気で前妻を亡くしています。

不動産会社の社長で、家政婦が居てピアノもあるような大豪邸に住むお金持ちです。

優子には家族になった時も、その後お別れした後も優しく接する温厚な人柄です。

森宮壮介
優子が15歳の高校1年生のときに3人目の父親になりました。

当時35歳で、梨花の中学時代の同級生です。

見た目は地味だけれど東大卒のエリートで、一流企業に勤めています。

梨花との離婚後も優子の父親として、優子と一緒に暮らします。

天然な性格というか独特な世界観の持ち主で愛すべき登場人物です。

早瀬賢人
優子の高校の同級生で、初恋の人です。

優子と早瀬は、それぞれのクラスで合唱祭のピアノ伴奏者に選ばれたことにより、

伴奏練習会で始めて顔を合わせます。

ちょっと天然。

大家さん
梨花と優子が2人暮らしをしていたアパートの裏に住んでいた大家さんです。

小学生だった優子は、家賃の支払いなどで度々大家さんと会うと

畑で取れた野菜などをもらっていました。

優子も足を痛めて外に出なくなった大家さんの代わりに、飼い犬「ポチ」を散歩に連れて行ったりしました。

優子のことを気にかけていて、親ではないけれど優子に愛情を注いだ一人です。

【ネタバレあり】感想

 困った。全然不幸ではないのだ。少しでも厄介なことや困難を抱えていればいいのだけど、適当なものは見当たらない。

こんな一文からはじまるこの物語は、

「親が再婚続きだからその子どもは不幸だ」なんて言う固定観念を打ち砕き、

血縁関係を超えた親子の繋がりや、誰かと暮らすことの意味などについて考えさせられます。

この物語はほとんど優子の目線で語られますし、もちろん優子の話なのですが、

タイトルに「そして、バトンは渡された」とあるように、

バトン(優子)を渡された親たち側の話でもあります。

それぞれの親は、優子を託されたことにより、それまでの人生で経験してこなかった幸福感を得ます。

特に梨花と森宮さんは、優子の親になったことで”明日が2つになった”と喜びを表現しています。

自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日がやってくる。親になるって未来が二倍以上になること。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?

そして、それぞれの親の愛情が詰まったバトンは、最後に優子の旦那さんに渡されます。

さて、読者が選ぶ人気登場人物ランキングがあるとすれば、森宮さんがダントツ1位になることでしょう。

僕自身も森宮さんのファンです。

森宮さん関連の好きなシーン、笑えるシーンは次のようところです。

◯ 優子の友人が自宅に遊びに来た際に「陰で森宮さん家では、お茶すら出なかったと言われては困る」と言ってお茶を用意し、父親としてカッコつけようとするところ

◯ 優子の気分が落ち込んでいる時や、イベントがある時などに料理で励ますところ

◯ ”親選手権”と言って過去の優子の親たちと自分を比較してどちらが優れているかを妄想するところ

◯ また、他の親たちを小物扱いするところ

◯ 優子のクラスが合唱祭で歌う合唱曲を密かに練習して、優子の伴奏に合わせて歌うところ

◯ 優子の大学受験前日に作ったオムライスの上にケチャップで長文メッセージを書いて引かれるところ

◯ それから、優子の婚約者に対する一連の態度は本当に愛くるしいです

 

この物語は、ほとんどが優子の目線で語られますが、最後だけは森宮さんの目線で語られます

ここは涙腺崩壊しますので、是非自宅で思いっきり読んでほしいです。

 

また、森宮さんと優子の食事シーンは、2人がコミュニケーションを取る上で欠かせないポイントです。

愛情たっぷりの料理は次のとおりで、美味しそうなものもあれば、少し変わったものも登場します。

このほかにも近所で買ってきたケーキ等も本当に美味しそうです。

◯ 始業式の朝食となったかつ丼

◯ にんにくとニラがたっぷり入った餃子(50個)

◯ ポテトサラダやエビなどの入った餃子

◯ トマトと玉ねぎがたっぷり入ったドライカレー

◯ きのこご飯と鮭のホイル焼き

◯ 大量のゼリー  等々

作品をさらに面白く読むために

この物語では、”ピアノ”が重要なキーワードになっています。

本編に登場する次の曲を知っていれば、情景が浮かんでさらに楽しめると思います。

◯ 合唱曲「ひとつの朝」 (作詞:片岡輝、作曲:平吉毅州)

◯ 合唱曲「虹」     (作詞作曲:森山直太朗・御徒町凧、編曲:信長貴富)

◯ 合唱曲「大地讃頌」  (大木惇夫の作詞、佐藤眞の作曲)

◯ 中島みゆき  「糸」、「麦の曲」

◯ アンドレ・ギャニオン  「めぐり合い」

◯ バッハ    「羊は安らかに草を食み」

まとめ

家族の形は、いわゆる核家族(父、母、子どもなど)であり、その家族は「血の繋がり」が前提となっていると思います。

この前提からはみ出した場合、僕たちは特にその家族の子どもに対して「可哀そう」、「不幸」などとネガティブな感情を持ってしまいます。

ただし、それはただの決めつけに過ぎないわけで、実際は全然違うケースは結構あるのかもしれません。

読了後に誰かと共感したいと思う本はたくさんありますが、

この物語は、友人はもちろん親などあらゆる年代の方におすすめできる物語だと思います。

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